三浦半島 トウキョウサンショウウオの暮らす谷戸  2004年3月


 地球は6度目の大量絶滅時代に向かって進んでいると地球政策研究所が警告している。2億4500万年前に全動植物の95%近くが絶滅、6500万年前に恐竜が絶滅するなど過去に5回の大量絶滅があった。火山の噴火や隕石の衝突、気候変動などの天変地異が原因だったと考えられ、その後生物の多様性が復活するには1000万年以上を要したという。現在進行している6度目の大量絶滅は、人類による自然環境破壊が原因だという。

 トウキョウサンショウウオは環境省のレッドデータブックに絶滅危惧種として登録されており、神奈川県内では三浦半島にだけ棲息している。神奈川県が独自に作成している地域版レッドデータブックでも絶滅危惧種とされている希少な生き物である。

 トウキョウサンショウウオは流れの穏やかな小川や低湿地帯の水溜まりに独特な形をした卵を産む。卵から孵った子供は暫くは水の中で生活するようだが、やがて山の中で生活するようになり、成長したトウキョウサンショウウオを見つけることは簡単ではない。

 三浦半島の衣笠城址近くにトウキョウサンショウウオがひっそりと暮らしている細い谷戸がある。ここにはニリンソウも点々と小さな群落を作っている。この谷戸をぬって流れる小川でトウキョウサンショウウオの勾玉のような形をした卵塊を見つけることができる。
 毎年2月頃に水溜まりに産みつけられた卵は、無色透明な勾玉形の1対の卵嚢に守られて桜の花の散る頃に小さな子供が卵から孵る。カエルの卵も無色の細長い卵嚢の中に産みつけらるが、カエルの場合は卵から孵ったオタマジャクシは直ぐに卵嚢から出て水中に泳ぎ出す。しかし、トウキョウサンショウウオの場合は、卵から孵った後も暫く卵嚢の中に留まっている。この時期がトウキョウサンショウウオの姿を見ることができる絶好の機会となる。
 勾玉形をしたトウキョウサンショウウオの卵嚢は蛙の卵塊と見間違えることはない。独特な形をしているので一度見たら忘れられないし、写真で見たことがあれば初めて実物を発見した時にも確実にトウキョウサンショウウオの卵だと見分けることができるだろう。

 神奈川県のレッドデータブックに登録されているトウキョウサンショウウオだが、皮肉にも神奈川県の事業によりその棲息地を次々と奪われている。
 当社も関係したYRP、湘南国際村、産業廃棄物最終処分場と続き、今また衣笠の谷戸からも追われようとしている。この谷戸を貫いて神奈川県が道路を作ることになっている。都市計画道路3.3.4久里浜田浦線という名前の道路だ。既に横浜横須賀道路の衣笠IC出口から、この谷戸に向かう道路の一部が完成しており谷戸入り口で今は行き止まりになっている。
 ニリンソウが咲き、トウキョウサンショウウオが暮らし、ホタルが舞い、ウグイスが鳴き、山栗やアケビが実る自然が、また一つ消え去ろうとしている。




※写真:上から、トウキョウサンショウウオの卵、ウシガエルの親と卵、アケビの蕾